2014年 5月 No.102
ホームドクター通信

◆当院からのお知らせ

新緑香る5月となりました。とても過ごしやすくなってきています。とはいえ、もうすぐ梅雨入りの時期となります。熱中症にもそろそろ注意が必要。体調管理には十分ご留意を。

医療情報として、スギ花粉の根本治療となる舌下免疫療法を取り上げました。
この薬を処方するには、日本鼻科学会、アレルギー学会が開催する講習会に出席し、出席後にe-learning, ウェブ上でのテストを受けないといけません。
私は以前免疫を勉強していたこともあり、この治療法に興味を持っていました。
6月に処方可能開始になったら、すぐに使えるよう、5月10日の土曜日に外来を早く閉めて、京都で行われた日本アレルギー学会の”アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実際と対応”という講習会に参加してきました。
忠岡から京都の国際会議場まで、2時間で行くんですね。通勤も可能だな、と思いました。以前は京都国際会議場(今は国際会館)は、山の上で行くのが大変だったけど、今は京都にも地下鉄があるから、早くなりました。
烏丸線は平成9年にできたそうですが、初めて国際会館まで乗りました。終了後、大阪で別の勉強会があったため、京都観光は一切せず、京都滞在時間約4時間で帰りました。とてもいい天気だったので、もったいなかった〜。
スギ花粉症の舌下免疫療法治療薬は平成26年6月発売予定でしたが、鳥居薬品と厚生労働症の薬価折衝が折り合わず10月に延期されました。なんだ、急いで行く必要なかった。
この院内報に載せるのも9月・10月の方がよかったかな、と思いましたが、自分の知識が新鮮なうちに書いてしまったあとなので、掲載することにします。薬価、大分たたかれたのかな〜。後からみると、4月には6月販売延期が決まっていたそう。講習会では何にも言ってなかったけど。
知らなかったのは私だけ?まあ、10月にはすぐ処方できるよう、e-learning も受けておこうと思います。

3Dプリンターが医療を変えようとしています。
3Dプリンターで拳銃を作った人がいて、逮捕されていました。そんなに精巧にできるものなのか、と感心していたところに、今度の生体肺移植のニュース。
京都大学で難病で左肺の移植が必要な40代の妻に、40代夫の右肺の一部を左肺として移植する生体肺移植手術に成功したと発表されました。
女性患者の状態から右肺を残すことを選択。
通常は左肺の提供を受けますが、夫の左肺は右肺に比べて小さく機能が不十分であるため、右肺の提供を受けました。左右異なる肺の移植は生体間では世界初。
3Dプリンターで患者の肺などの立体模型を事前に作って縫合場所などを確認したそうです。
通常の生体肺移植では肺静脈を「左上葉静脈」という血管につなぐところを、心臓の一部である「左心耳」という部分につなぐ対処法を術前から予定していたとのこと。
立体模型の活用で、これまで移植を断念していた患者でも治療できる可能性が広がりそうですね。手術前にCTとかMRIで撮った画像で、臓器の模型を3Dプリンターで作成しておくと、手術には最高の情報ですね。まだおそらく高いんでしょうけど。普及してほしいです。
この手術に成功した伊達教授。岡山大学第二外科の出身です。私に数人岡山大学第二外科出身の同僚がいて、当時講師だった伊達先生の噂を聞いてました。手術は正確だし、英文の論文を月に一本とノルマを決めて、実践されていた凄い人だったそうです。マラソンが趣味で、論文執筆中に壁にあたると、ちょっと走ってくる、と言って走りながら論文の構成を考えていたとのこと。今でも、朝京都の街をランニングされているそうです。手術の前は神社に寄って成功祈願をされるとか。個人的に面識はありませんが、活躍を期待しています。そういえば、マラソンしてるiPSの山中教授も京都大学ですね。いい人材をスカウトしてきています。
日本の医療発展のため、頑張ってほしいです。

住民健診は今年は5月19日より開始されます。
(詳細は、最後のページの編集後記に記載しています。)

5・6月もまた当方の都合で水曜日午後が休診となります。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

◆アネトス通信

5月の晴れの空に木々の緑が美しい季節となりました。
皆さん体調はいかがでしょうか?朝夕の気温差が激しい時期なので風邪をひかないよう注意しましょう。
アネトスに来て思うことがあります。食べる事の大切さ・美味しいものを食べられる当たり前の事に感謝です。
ちょっと話は変わりますが…
アメリカの学者が発表しました。
「がんを抑制すつ大変素晴らしい食を持つ国が世界にひとつだけあります。」と。
「どこの国?」「それは日本です。」泣けます・・・(T_T)
日本食は免疫力を高める大変優れた世界に自慢出来る食です。免疫力とは、あらゆる病気を抑え込む体のチカラ。がんにも抵抗するチカラです。
ところで、がん細胞は健康な人の体でも1日5000個作られます。がん細胞とみんな共存して毎日生きています。が、がんにならずにすんでいるのは、体の中で免疫くんが「悪さをしてはダメ!」と、がん細胞をやっつけてくれているからです。
免疫力がいかに大切か、の免疫力を左右するのは「食」が重要です。
世界に自慢できる日本食を食べていた以前の日本人は菜食で、元はがんになりにくい体質でした。日本でがんがこんなに増え減らないのは「食生活を全く意識せず何も対策していないこと」が理由です。毎日食べてる物で自分の体が作られているのです。
食生活を見直しましょう。日本食を食べよう!(^O^)
今月号よりアネトス通信の担当が変わります。
5月1日よりアネトスの仲間になりました、新人看護師の中井です。
わたくし、食べる事大好き!日本食大好き!です。
末永くよろしくお願いします。

◆舌下免疫療法

今回はスギ花粉症の新しい治療の御紹介です。
スギ花粉症は今では国民の4人に一人、と言われる時代に突入しています。
非常に多いし、また近年増えました。
抗アレルギー治療薬、ステロイド点鼻薬、花粉ブロックなどで、かなり治療効果は上がっていると考えられますが、まだ根本治療は無いのが現状です。

実は根治を目指す治療法が存在していました。
減感作療法という治療法で、アレルゲンのスギエキスを少量から少しずつ量を増やして、何回も長期にわたり皮下に注射していく方法です。
今まではこれは注射でしないといけなくて、痛いのと、治療に長期間かかること、一週間に1-2回の受診が面倒なようで、一定の効果をあげたのですが、全く普及しませんでした。
この普及しない理由はよくわかります。

減感作療法において、この注射に変わる舌下免疫療法がもうすぐ保険適応になります。
舌下免疫療法は、保険適応になるのはスギだけです。スギのエキスを薄いものから濃いものまで準備し、最初は薄いものから、舌の下に2分間置いて、飲み込むというものです。
段々濃度を濃くしていき、維持量で毎日、最低2年は継続します。
でも、痛くはないですし、初回は診療所での服用、観察が必要ですが、あとは家でできます。
薬を処方してもらうのに月に一回(初年度は月2回)程度通院する必要がありますが、週1-2回、ということはありません。

減感作療法はアレルギー性鼻炎、スギ花粉症の完治が望める治療法です。
アレルギー・減感作療法について、説明します。

アレルギーは生体反応で、異物が身体に侵入したとき、攻撃してその異物を体外に排出しようとする反応が普通の人より強すぎるもの、といえます。
ちょっと異物が入っただけでも、敵だ〜、と大騒ぎして、スギ花粉の場合でしたら、目から涙を出す、鼻水を出す、くしゃみを出す、咳を出す、ひどい場合には喘息になる、というような防御生体反応が過剰にでてしまう状態、、です。

一気にアレルギーの原因物質・アレルゲンに暴露すると、過剰なアレルギー反応が起こってしまう方でも、少しずつ抗原に暴露させることにより、そのアレルゲン特有に反応しない状態を作ることができることが知られています。
この特定の抗原に反応しなくなる状態が免疫寛容(英語ではtolerance /トレランスといいます)です。

日本では漆器職人など漆を扱う職業の親方が、徒弟の舌下に少量の漆を置いて少しずつ量を増やす事で漆アレルギーを起き難くさせる、という事が経験則から慣習的に行われていたそうです。(wikipedia 減感作療法)これがまさに減感作療法で、免疫寛容を誘導した状態といえます。

詳しいことは今回は控えますが(病態は非常に複雑で現在もまだ研究中)、一つだけ。
免疫寛容の状態では 調節性のT細胞がでてきます。制御性T細胞です。T細胞というのは免疫にかかわるリンパ球のひとつです。
日本医大のグループが三重大学のグループと実施した共同研究では「免疫寛容において中心的な役割を果たす『制御性T細胞』が、舌下免疫療法を受けた患者さんにおいて増加していることが分かりました。
制御性T細胞にはいくつか種類があり、その中でも特に免疫反応を抑制することで知られる「IL-10」というサイトカインを放出する「Tr1」と呼ばれる制御性T細胞が多く産生されていたという。
まだ研究途上ではありますが、舌下免疫療法では、この細胞の複雑な免疫抑制機能によってアレルギーの発症が抑えられると考えられています 。

まあ、このような調節性T細胞を誘導して、免疫寛容の状態をつくることが、少量ずつアレルゲンを投与していく減感作療法では可能だということです。そして、今まで痛くて、何回も病院にいかないと行けなかったのが改善された治療法といえます。

舌下免疫療法をご希望の方は、発売予定の10月より11月末での治療開始をお勧めします。薬価収載(薬の価格が決定される)されるのが8月頃の見込みですので、ご希望の方は8月末から11月上旬頃に受診してください。
受診されたら、鼻水が出る方には鼻汁好酸球試験をします。また、問診で鼻炎の重症度を判定します。
そして、血液検査でスギに対するアレルギー反応があるかどうかを調べます。
その上で舌下免疫療法の適応があるかどうかを判定します。

治療薬は鳥居製薬から販売されるシダトレン、という薬です。
もともと注射用に使われている薬と全く同じ成分ですので、極めて安全につくられています。体内に注射するものを口にいれることになりますので、薬自体は安全です。花粉を溶かしている液にグリセリンがはいっていますので、やや甘いです。少し酸味もあります。

副作用は注射に比べて少ないと言われています。
この薬は合成薬ではなく、自然界にあるスギ木の花粉から薬用に成分抽出されています。
重大な副作用として舌下直後にアナフィラキシーとよばれる強いアレルギー反応を起こす可能性があります。
つまり、スギ花粉にアレルギーがある患者さんにスギ花粉で治療するわけですから、口にスギ花粉を入れることによりアレルギー反応が起こる可能性があります。
初回、当院内でアナフィラキシーが起こった場合、エピネフリンという薬の注射、点滴、場合によりステロイドを使用します。軽快しない重篤な場合は病院に救急搬送することになりますが、今までの報告では無い、ということです。無いことを祈ります。
これまでの海外での実績で重篤な副反応はきわめて稀であり、従来の注射による方法よりもかなり安全とされます。しかし、軽微な副作用として、口内炎、口腔内潰瘍が出来る場合があります。

治療効果

国内で行なわれたシダトレンのスギ花粉症での臨床試験では、60人のスギ花粉症患者さんをランダムに二つのグループに分けて、それぞれに対して抗原もしくはプラセボ(偽薬)を用いた舌下投与の効果を測定しました。この臨床試験では「二重盲検比較試験」という方法を用い、患者さんのみならず治療に当たる医師も、どのグループがどの治療を行っているのかが分からないようになっています。
臨床試験の中では、最も信頼性の高い結果が出ると言われている方法です。この臨床試験の結果、舌下免疫療法は、プラセボの舌下投与群に比べて、統計学的に有意な症状やQOLの大幅な改善を見ることが出来ました。舌下免疫療法が非
常に効果の高い治療法であることが明らかになりました。

舌下免疫療法でスギ花粉症が根治する例は20%程度です。
舌下法で少しの症状があったがとても良かったという人が20〜30%、効いたと思うという人が20〜30%で、全体の70〜80%の人に有効でした。残念ながら20-30%の人は無効だったということです。
治療前にどのようなかたが効果的で、どのようなかたが全く効かないかがわかれば問題ないのですが、現在はそれがわかりません。多くの研究施設がこの問題に取り組んでいます。
一般的にスギだけが発症アレルゲンという方は有効率が高いとされています。検査ではスギ抗原特異的IgEが高く、血清総IgEが低い人では免疫療法が有効であることを予想できるそうです。

臨床研究に参加した患者さんの血液検査をしたところ、治療効果があった群となかった群の間で、血液中のサイトカインであるIL-12に有意な差がありました。また同様に、遺伝子解析において、白血球で発現されるHLAの分析をしたところ、MHC-II DRB1*12というタンパク質の発現量に違いが見られたといいます。
日本医大のグループは、この研究から他にも治療効果に関係する34の遺伝子を見つけだすことに成功しました。このような結果から、これらのバイオマーカーを組み合わせることで、舌下免疫療法の治療効果の事前判定が可能になることが期待されます。

注射法でも舌下法でも3〜5年行えば、治療を止めても効果(スギに対する免疫寛容の状態)が長く持続すると考えられています。
効果のある方には舌下免疫療法を4〜5年行うことを勧めています。日本で行なえるのはスギ花粉のみです。日本でスギ花粉症の舌下免疫療法が広く行われるようになれば、他の花粉・ダニ(ハウスダスト)治療液が保険適応になるかもしれません。現在、国内でのダニの臨床試験がされているそうです。

治療適応は、スギ花粉症の根治を望む方、といえます。

以下の方は適応外です。

適応の年齢は
スギ花粉の舌下免疫療法は12歳からが適応となります。小児にも使用できるよう希望するところです。
年齢の上限はありません。高齢者でも可能です。

10月頃の発売が予想されますが、治療費は薬価が決まるまで未定です。8月頃に薬価が決まると思います。花粉症に使われる飲み薬と同程度の薬価になることが期待されていますので、とても高価な治療にはならないと予想していま
す。
治療開始時期は。11月までに開始することが勧められています。
花粉飛散が始まる直前に治療を開始すると効果がでないだけでなく、安全性にも問題があります。花粉飛散期には開始できませんので、スギとヒノキの花粉がおわってからの治療開始がよく、6月から11月に治療を開始するのが望ましいでしょう。
花粉症の治療のひとつの舌下免疫療法が、花粉症に悩む人たちの福音になることを期待しています。

◆編集後記

住民健診は今年は5月19日より開始されます。

今年も特定健診の自己負担費用昨は昨年同様500円です。
泉大津は無料化したそうです。75歳以上の方は無料です。
忠岡町在住の方、是非健診受けて下さい。
特定健診はメタボにフォーカスをあてた健診です。
胸部レントゲンを健診項目にいれて頂くよう医師会から行政にはお願いしていることろですが、今年も特定健診項目にははいりませんでした。肺癌検診として、町に申請して検査して頂くことになります。当院かかりつけの方については、できれば年一回くらいは何かの機会に胸部レントゲンは検査していきたいと考えています。
特に喫煙者の方。更にいうと、肺癌検診はもうレントゲンより胸部CTでする方がいいと思っています。胸部CTですと、完治可能な小さい肺癌を発見することができます。喫煙者、周囲に喫煙者がいる人、特定の作業に従事する方には、お勧めしたいと思っています。
禁煙治療もしていますので、御希望の方はお申し出ください。。