2014年 6月 No.103
ホームドクター通信

◆当院からのお知らせ

6月に入りました。6月初旬は真夏かと思われる日もあり。早々と熱中症のニュースがでていました。
そう思うと、もう関西梅雨入り宣言。じめっとした日々が1か月以上続きます。体調管理には十分ご留意を。

サッカーブラジルワールドカップが近づいてきました。BRAZIL
日本はグループCで、現在日本はFIFAランキング46位です。6月15日レシフェで23位のコートジボワール戦6月20日ナタルで12位のギリシャ戦6月25日クイアバで8位のコロンビア戦が行われます。
FIFAランキングでみると、日本はかなり不利ですが、ここからどういう戦いをみせてくれるのか、期待したいところです。ちなみに、FIFAランキング1位はスペイン、2位がドイツ、3位が開催国ブラジルです。

日本とブラジルの時差日本とブラジルの時差は-12時間。
今回は日本時間の午前中に行われることが多いようです。
選手の移動距離も大変で、レシフェとナタルは250km離れていてナタルとクイアバは2500km離れています。
日本の北海道の稚内から那覇までが2500kmで、ナタルとクイアバがほぼ同じ距離です。広いんですね。
開催地ブラジルで、ストやデモが多いとか、スタジアムの建設、選手宿泊施設、プレスセンターが完成していないなんていうニュースも入ってきています。試合は安全に、トラブルなく行われることを祈ってます。

STAP細胞

STAP細胞の論文が取り下げられることになりました。
世界に衝撃を与えた万能細胞「STAP細胞」でしたが、その研究成果は白紙に戻ることが決まりました。
発表された論文について、理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーと米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授が撤回に同意したからです。
「結論が完全な間違いであったと認めることになる」と撤回には応じない姿勢を見せていた二人の姿勢を変えさせたきっかけは、論文を掲載した英科学誌「ネイチャー」編集部の「自ら撤回を」との打診でした。その一方で小保方氏はSTAP細胞の存在を信じており、「論文を撤回することで、事実そのものがなくなるわけではない」とし、STA
P細胞を息子にたとえて、「生き別れた息子を捜しに行きたい」と話しているそうです。
今後小保方氏を交えて、再現実験がなされるとのこと。
STAP細胞との再開の報告が聞けるよう、小保方氏には頑張ってもらいたいです。

混合診療

 安倍晋三首相は10日、保険診療と保険外の自由診療を併用する「混合診療」を拡大し、「患者申し出療養制度を新たに創設・患者の申し出を重視して診療を認める新たな仕組みをつくると表明しました。
患者の申し出に応じ、使える国内未承認の新薬や最新の医療機器を増やすとのことです。
今月中にまとめる新たな成長戦略に盛り込み、来年の通常国会に関連法案を提出し、成立を図る意向とのこと。
現在は94種類の先進医療などに限定して混合診療が認められていますが、他は原則禁止。
保険外の診療(たとえば日本国内で保険適用になっていない抗がん剤など)を併用した場合は、保険診療は認められず、全額自費診療になることになっています。
日本医師会は原則混合診療の導入に反対しています。
主な理由は、混合診療が導入された場合、保険外の診療の費用は患者さんの負担となり、お金のある人とない人の間で、不公平が生じる恐れのあること。
安全が十分に確認されていない薬や治療法が使われるようになること。
TPP問題とも絡めて、今後の行方を見守る必要がありそうです。
是非国民皆保険制度は継続していただくようお願いしたいです。、

ディオバン問題

降圧剤「ディオバン」の臨床研究で、東京地検特捜部は6月11日、薬事法違反(誇大広告)の疑いで、ノバルティスファーマ元社員を逮捕しました。
臨床研究の信頼を失墜させたデータ不正問題は、刑事事件に発展したことになります。
逮捕容疑は、京都府立医大の研究チームが集めた脳卒中の発生数などのデータを操作したほか、解析結果の確実さを示す虚偽の数値を使った図表をチームに提供し、2011年10月ごろ、ディオバンに有利な記載をした論文を海外の医学誌に発表させた疑い。
この臨床研究は2002年以降、京都府立医大、東京慈恵医大、千葉大、名古屋大、滋賀医大で大規模に実施され、ノバルティス元社員容疑者がデータの解析などを担当。
ディオバンは脳卒中などを防ぐ効果があると発表したものです。
今後の捜査の動向に注目したいです。

6月も水曜日の午後を休診させていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

お盆休みは8月15日〜18日までで、19日から通常診療致します。

◆高血圧

日本高血圧学会は、以前のガイドライン(JSH2009)を改訂して、今回『高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)』を公表しました。
ガイドラインは我々高血圧の専門医ではない医師が、高血圧の患者さんを診療するときの拠り所になるものです。
私は大体このガイドラインに沿って、診療しています。
専門医と全く同じ、というわけにはいかないでしょうが、かなり専門医に近づいた診療ができるのでは、と思っています。
では、今回のガイドラインの内容を抜粋してお知らせします。

降圧目標

2010年国民健康・栄養調査によると、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%が高血圧(収縮期血圧 140mmHg以上または拡張期血圧 90mmHg以上、または降圧薬服用中)と判定されました。
NIPPON DATA2010における高血圧有病率から、本邦における2010年の高血圧有病者数は約 4300万人(男性 2300万人、女性 2000万人)と推定されています。
日本の人口が約1億2000万人ですから、約3分の1、ということになります。
極めて多い、一般的な疾患です。

高血圧がなぜいけないか?血圧が高いまま放置すると、心血管イベントといわれる虚血性心疾患、脳疾患が増加するためです。
この虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)脳疾患(脳梗塞、脳出血)を予防するために治療をしているのです。
昔は血圧は年齢+90といわれて、そんなに治療は必要なかった、ほんまに薬いるんか?という声も外来でよくお聞きします。
しかし、その時の平均寿命を考えてみてください。やっぱり今と比べて短かったのです。
高血圧治療が進んだことも、日本人の平均寿命が延びた一因である、ともいえると思います。

日本の高血圧の特徴としてこのガイドラインでは、塩分摂取量が多いこと、肥満・メタボリック症候群が多いことが指摘されています。
塩分については、食塩摂取量と血圧との間にも関連があることが証明されています。
1950年代の東北地方の食塩摂取量推定値は1日 25 gにも達していたという報告もあります。
平成23年(2011年)国民健康・栄養調査結果では、国民 1人 1日あたりの食塩摂取量は平均 10.4g(男性 11.4g、女性 9.4g)であり、徐々に低下傾向にはあります。
2012年に発表された世界保健機関(WHO)のNa摂取量に関するガイドラインでは、一般成人の食塩摂取量を5g/日未満にすべきとしています。
本邦では、2022年までに国民の平均食塩摂取量を8.0 gにすることを目標にしています。
まだままだ世界基準には程遠いレベルといえそうです。
当院では、検査会社の協力も得て、尿から1日摂取塩分量を測定しています。
自分では薄味、と思っていても、結構塩分摂取されている方がおられる、というのが私の印象です。
また、秋くらいになりそうですが、オムロンから、塩分摂取を推定できる測定器が販売されるそうです。
一日一回6日間連続で尿のナトリウム、カリウムを測定することにより、24時間畜尿による塩分摂取量結果とほぼ同等の正確さで一日塩分摂取量がわかるとのこと。

塩分摂取測定器

ちょっと期待しています。
もうひとつの特徴である肥満については、肥満度の指標であるBody Mass Index(BMI、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)、肥満は25以上)は男性では年々増加し、肥満者割合は過去 30年で約2倍にでした。
平成23年国民健康・栄養調査における20〜69歳男性の肥満者の割合は32%でした。
NIPPON DATAにおける1980年から2010年にかけての30年間の推移分析では、高血圧に対する肥満の寄与割合は男性では11%から27%に、女性では19%から26%に増加した。

今回のガイドラインで一番変わったことは、高血圧の診断基準と治療目標と思います。
表を示しますが、日本高血圧学会の血圧分類では、高血圧を 140/90mmHg 以上としており、収縮期、拡張期共にその基準を下回っているときに正常域血圧としています。
その中に至適、正常、正常高値の 3 つの分類を設けています。

成人における血圧値の分類


治療目標については、中年で140/90(診察室)以下、家庭血圧では135/85以下です。
75歳以上の後期高齢者については150/95(診察室)、140/90(家庭血圧)以下、とされています。
ただし認容性があれば、140/90(診察室)、135/85(家庭血圧)とされています。

私は東北大学の今井先生の、高齢者でも血圧は低い方がいい、という以前の教えに従って結構高齢者でも低いレベルでコントロールしていました。
また少し考え方を変えなければいけない、と考えているところです。

次に変わったことは、家庭血圧重視になったことです。
一日2回、朝夕の測定。一機会2回測定して、その平均をとります。
診察室の血圧と家庭血圧の解離があれば、家庭血圧のほうを採用して、治療にあたります。
当院では12年前から高血圧の方すべてに(予備軍も含む)、家庭血圧の測定をお願いしています。
診察室で測るより、家庭血圧のほうが信憑性があるからです。
これからも、少し血圧の高い方、降圧剤を服用されている方にはしつこいくらい家庭血圧測定をお願いすることになりますので、よろしくお願いします。

今回のガイドラインで治療薬としては、βブロッカーという薬が第一選択からはずれました。
これは、私も第一選択薬で使用することは10年前からほとんどありませんでした。
多くはARB、カルシウム拮抗薬を第一選択にしていましたので、納得できるところではあります。
でも、βブロッカーが心不全、頻脈、時に手が震える、などにいい薬であることは間違いなく、今でもよく使いますし、今後も使うだろうと思います。

この日本高血圧学会のガイドラインが出たあとに、「新たな健診の基本検査の基準範囲―日本人間ドック学会と健保連による 150 万人のメガスタディ」が公表されました。
同報告によれば、人間ドック受診者約 150 万人のデータから、約 34 万人の「健康人」を抽出し、そのなかから 7 分の 1 をランダムに抽出したうえで統計的な異常値除外処理をした約 1 万〜1 万 5 千人(超健康人・スーパーノーマルの人)の検査値から、新たに血圧、BMI、血糖、コレステロール等、27 項目の基準範囲を設定したとしています。
血圧のデータをみてみると、
・収縮期血圧:従来基準値=129 mmHg から今回の報告: 88〜147mmHg
・拡張期血圧:従来基準値=84 mmHg 以下 から今回の報告 51 〜94mmHg
と従来の基準値から大きく変化しています。

これらの結果について、新聞、テレビをはじめ多くのメディアがとり上げ、「血圧 147 は健康」などと報じ、国民にとっては、各検査値に 2 種類の基準値が示されたこととなり、医療現場は大きな混乱を来しています。

高血圧学会はすぐに声明を出し、高血圧の基準は140/90と再確認しています。

医療界でも正常値のデータをと統一する努力は必要でしょうね。
当院は日本人間ドック学会の基準を採用しません。

◆編集後記

私事ですが、昨年11月に事故で左足関節の手術をしました。
最近になり、痛みが少し軽減され、ジムのランニングマシンで5kmくらいは走れるようになりました。
今年のマラソンシーズンには間に合うかな、と思っていますが、プレートを抜く手術を受けるかどうか、まだちょっと迷っています。8月にプレートを抜く手術をしたら、3ヶ月間は走ることができません。
もし、このまま痛みがひいていけば、このままでもいいのかな、という気もしています。
少しずつランニングの距離を伸ばしながら考えることにします。