ホームドクター通信
2007年9月 No.22
◆海外の医療保険制度

 9月になり、朝夕が涼しく、日中の照りつける日差しも和らぎました。
8月の日中の訪問診療は結構過酷なものがありました。しかし実は私は夏が好きなので、この時期は少し寂しい思いをしています。

この夏は例年に比べ本当に暑く、当院でも熱中症かと思われる方の受診がありました。
まだ暑い日もありますが、台風のシーズンも到来、明け方などは少し冷え込むことも増えそうです。
体調管理には十分ご注意ください。


 先日、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画、シッコを見てきました(いつも行く岸和田では上映していなかったので、堺まで行きました)。テーマは“アメリカの医療保険”。先進諸国で唯一国民健康保険制度がないアメリカは、6人に1人が無保険で、毎年、1.8万人が治療を受けられずに死んでいくといいます。WHO(世界保健機構)の調査ランキングでは、健康保険制度の充実度は世界37位。先進諸国では最下位です。

 仕事中に指を2本切断する事故に見舞われた医療保険に入っていない大工は、医師から「薬指をくっつけるのは1.2万ドル(138万円)、中指は6万ドル(690万円)」と言われ、中指の処置は断念しました。日本ではおそらくそれなりの技術のある病院に紹介され、何時間かかっても2本ともつないでもらえたでしょう。

 さらに保険に入っている人たちが病気になったときに、実は保険が下りないことがあるという矛盾も指摘されていました(保険会社も商売だから)。
ある20代女性は、医師からガンだと宣告されたにも関わらず、保険会社からは「その年でガンになるなんてありえない」とイチャモンを付けられ、保険金が下りませんでした。またある母親は、加盟している保険会社の系列病院でないと保険が効かないと救急車で搬送された病院で言われ、たらい回しにされた挙げ句、子どもの命までをも失ってしまう。日本でも奈良県の妊婦たらい回し事件がありましたが、また違った意味で悲惨な映像でした。

 イギリス、フランスは良質な医療制度として紹介されていましたが、日本の医療制度はこの映画には登場しませんでした。医療費削減のスローガンの元、医療特区によって株式会社の医療機関が出現するなど、日本の医療制度が今、少しずつアメリカよりに向かっていることが予想されます。財源の問題もあり、医療費すべて税金で負担すれば、その分、私たちの日々の生活に跳ね返ってくるのもまた事実。とはいえ、アメリカ型の医療制度を選択した際に訪れる未来は、この映画が語っているとおり、決して明るいものではないだろうと感じました。

現在の日本の医療は安価で結構良質と考えているのは私だけではないはずです。










◆特集:骨粗鬆症について


 骨粗鬆症とは骨量が減少し、骨組織の微小構造が変化し、骨がもろくなり骨折を起こし易くなった状態です。
この様な状態は骨を作る細胞(骨芽細胞)が減り、骨を溶かす細胞(破骨細胞)が増えた時、すなわち、骨形成(骨を作る能力)と骨吸収(骨を溶かす作用)のバランスが崩れた時に起こります。
その結果、ちょっとしたケガ(転倒、尻もち、布団の上げ下ろし、くしゃみをした際など)で簡単に骨折を発生します。
特に、大腿骨頚部骨折になりますと、20%前後が「寝たきり」になるといわれております。

 骨粗鬆症は閉経後の女性や老化に伴って生じる原発性骨粗鬆症がほとんどです。50歳代の女性では4人に1人が、70歳代では2人に1人が骨粗鬆症といわれ、わが国では1000万人程度(女性800万・男性200万)の骨粗鬆症の患者がいると推定されています。

 原因としてはカルシウムの摂取不足やカルシウム吸収力の低下(摂取したカルシウムを腸管から体内に取り込めない方)、女性ホルモンの減少(閉経後のホルモン分泌低下のよるもの、婦人科疾患によるホルモン分泌異常)および遺伝的因子などが考えられます。


骨粗鬆症にならないためには10歳から20歳にかけて最大骨量を増やしておく事が大切です。
その為に、この時期によく運動し、偏食せず、間違ったダイエットを行わない事です。

骨粗鬆症による骨折の予防のためには早期診断が大切です。
女性は50歳頃から閉経が始まります。この時期より、女性ホルモンの分泌が低下しますので、骨量は急激に減少します。是非、閉経期の前後(40歳台と50歳台)に受診され、骨粗鬆症の有無について相談して下さい。
但し、家系に骨粗鬆症を認める方や婦人科疾患をお持ちの方、過去に胃腸などの手術をされた方、ホルモンの分泌異常のある方、何度もダイエットを行った方、偏食のある方はこの限りではありませんので、早めの検査をお勧めします。


骨粗鬆症の診断はレントゲン評価法(胸椎と腰椎の前後像・側面像)と骨量測定法によってなされます。
骨塩定量法は骨粗鬆症の診断や治療効果の判定に用いられます。

当院ではDIP法を採用しています。
この方法は階段状のアルミニウム板と患者さんの第2中手骨を同時にレントゲンで撮影してアルミニウムと中手骨(骨幅・骨皮質幅・骨髄幅)との陰影濃度を比較し骨塩量を測定する方法です。骨量がYAM(若年成人の平均値)の80%以上が正常です。
最近では骨代謝マーカー(骨が溶ける時、又、作られる時に血液や尿中に発生する物質を測定する方法)にて骨量の評価が可能となり、骨粗鬆症の診断や治療効果の判定に補助的に利用されるようになっています。


骨粗鬆症の治療開始基準によると

◎腰椎の圧迫骨折などがある場合

◎明らかな骨折がなくても、骨量測定検査で 骨量が若年者基準値の70%未満の場合

◎若年者基準値の70〜80%の領域で飲酒・ 喫煙・大腿骨骨折の家族歴がある人

が治療の対象とされています。


 骨粗鬆症の治療は薬物療法が主体となります。
薬物療法は骨粗鬆症の人にとって非常に重要な治療法です。薬物療法は骨吸収抑制剤(骨が溶けるのを抑える薬)と骨形成促進剤(骨を作るのを促す薬)と骨代謝調整剤(骨吸収と骨形成を調整する薬)とに分かれます。


 骨吸収抑制剤としてはビスホスフォネート(朝起きてすぐ飲んで食道にひっかかるとまずいので服用後は30分寝てはいけない薬です。最近は一回のむと一週間有効な薬も開発されています)、エストロゲン(女性ホルモン剤)、カルシトニン(注射です)などがあります。

 骨形成促進剤としてはビタミンK2、蛋白同化ホルモンなどがあります。

 骨代謝調整剤としてはカルシウム剤・活性型ビタミンD3などがあります。



 食事に関しては、出来るだけ多くのカルシウムを摂取しましょう。体内のカルシウムは、だまっていても1日に600mg程度は便や尿、汗などで体外へ排出されます。カルシウムの摂取量は1日800〜1000mg程度を目標として下さい。乳製品を多くとるようにして、サプリメントも有効です。























 また、骨量増加のためには運動療法も必要です。
各種のストレッチや筋力強化訓練、有酸素運動などを行うことをお勧めします。

特に、高齢者においては有酸素運動が骨密度増加に効果があります。運動により骨が刺激され、骨が伸びたり、縮んだりすると、骨芽細胞(骨を作る細胞)が刺激を受け、骨の代謝が活発になり、骨形成を促してくれます。


骨粗鬆症の治療は目覚しい進歩があり、海外ではすでに新しい薬剤が使用され、それぞれの有用性が認められております。近い将来、日本での使用も可能になるものと期待されます。さらに将来、骨粗鬆症の遺伝子情報が解明されると、個々の患者さんにあった予防や治療が可能となります。今後の研究が期待される所です。













◆かかりつけ患者さん募集中

 最近の医療は病気の診療だけではなく、病気の予防、早期発見、初期治療に重点が置かれています。
そのためには、「かかりつけ医」として日常的に気軽に診療や健康診断を受けることができる医院を目指すことが大切だと考えます。
当院では「かかりつけ患者」として下記に同意していただける方を募集しています。興味がございましたらスタッフまでお尋ねください。

何をしてくれるの?

かかりつけ患者になるには?

慢性疾患をお持ちで、月に一度は当院に定期的に受診される方のうち、下記の項目に同意していただける方です。
以上を納得され、書面にサインしていただける方を当院のかかりつけ患者として登録させていただきます。

現在のところ、何かあれば当院に受診される方、住民検診などを当院で受ける方はかかりつけ患者の範疇にはいれていません。風邪をひいたら、今回はあそこの診療所、次回は○○病院という方もご遠慮いただいています。

かかりつけ患者になって総合的に管理してほしいと思われた方がいらっしゃいましたらお気軽にスタッフまでお声をおかけ下さい。



◆編集後記

いつものことながら、発行が遅れてしまいました。

来月号は早く出せるように頑張ります。


▲お知らせ▲

11月2日(金)の夜診は学会参加のため、休診とさせていただきます。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。