2012年 10月 No.83
ホームドクター通信

◆お知らせ

秋が駆け足で深まりつつあります。今年も残すところあと2カ月ちょっと。時のたつのは本当に早いです。半袖の服が好きで、例年5月1日から10月31日まで半袖で過ごすことにしていますが、流石に朝夕は寒いです。通勤がなくてよかった。10月31日が私にとっての衣替えの日なのです。寒暖の差が大きいので、体調を崩されませんよう。

今月の私にとっての一番のニュースは、京都大学の山中伸也教授のノーベル賞医学生理賞の受賞でした。5年前・2007年11月のNo.24の当院院内報に、最近の話題、として、初めてiPS細胞のニュースを知った時の驚きを書いています。以下引用。

京都大学のグループがヒトの皮膚細胞からあらゆる細胞に分化できる万能細胞をつくることに成功しました。皮膚の細胞を取り出して、4つの遺伝子を導入して(原文を読んでいないので、どのような遺伝子なのかはまだ知りませんが)、作成したようで、神経、筋肉、肝臓、心筋などの細胞に分化することが可能であったようです。自分の皮膚から移植用の臓器が作られる可能性もあり、臓器移植などの再生医療の分野では大きな前進といえそうです。クローン羊のドリーが出たときも結構驚きましたが、今回もかなりインパクトがあり、この万能細胞は追試で確認されたら、ノーベル賞級の研究と思われます。

以上引用終わり

以後、iPS細胞にはずっと注目してきました。初期の4つの遺伝子から発がん性のある遺伝子を除去して、安全性も向上してきています。欧米諸国でもiPS細胞を使った研究が進み、ノーベル賞受賞は確実なものとなっていました。実は昨年受賞があるかな、と期待していたのですが、今年になりました。それでも、発表から5年の受賞はずいぶん早いです。神経難病、脊髄損傷などの治療、臓器移植など再生医療への臨床応用、新薬の開発にももう目の前にきています。素晴らしい進歩です。是非日本主導で研究を進めて頂きたいと思います。山中教授は今年の京都マラソンでお見かけしました。来年もお会いできるかな。お会いできたら勿論面識はありませんが、一言これからも頑張ってください、と言いたいです。

インフルエンザ予防接種しています

10月1日よりインフルエンザ予防接種を行っています。1回2800円、2回目は2000円、忠岡町在住の65歳以上の方は1000円です。昨年からWHO推奨を受けて、3歳以上13歳未満は成人量と同じ0.5mlの2回打ちに変更になっています。13歳以上は0.5ml接種、1回または2回となっています。インフルエンザワクチンは打てば必ず発症がおさえられるというワクチンではありません。その役割はかかりにくくすることと、かかっても免疫があるために重症化しないこと。死亡者や重症者を出来る限り減らすことが期待されています。ワクチンの予防効果持続期間はおよそ5カ月と推定されています。

ワクチンの接種を受けていても、日頃から手洗い・うがいをきちんと行い、流行時期は人ごみをさけて感染機会を減らすよう気をつけて下さい。

子宮頸がんワクチン、肺炎球菌ワクチン、Hibワクチンも引き続き受け付けています。また新たに4種混合ワクチン(3種混合+ポリオ)が始まります。予約制です。

今年度年末・年始休暇のお知らせ

12月31日(月曜日)-1月3日(木曜日)まで休診させて頂きます。予約診察がこの期間にあたる方は診療予約、薬の処方日数など変更させていただきます。こちらも気をつけますが、定期薬服用中の方は休み中に薬が無くなるということのないようお願いします。御迷惑をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

◆アネトス通信

朝晩、随分と涼しくなりました。
日によっては寒く感じる日もあり、ようやく秋になったように感じますね。
秋は、食欲の秋、読書の秋と言われるように色々とやりやすい気候の時期です。
私は、食欲の秋がメインですが・・・(笑)

先日アネトスでは、ちょっと秋の味覚を味わおうと、さつまいもを使って、スイートポテトを作りました。利用者様からは、「おいしい!!」「思ってたよりあっさりしてる。」など言っていただけ喜んでもらえました。
紅葉の時期には、ご利用者様とも相談をして紅葉狩りにも出かけたいなと考えています。

また早いもので、今年も残す所あと2ヵ月余りとなりましたね。
やり残しが内容に有意義に過ごすようにしようと思っています。

アネトスでは、ボランティアも随時募集しています。
ご利用者様のお話相手等、少しでも興味があればご連絡下さい。

連絡先:療養通所介護アネトス
〒595-0805
大阪府泉北郡忠岡町忠岡東1-15-28
TEL 0725-32-2884 担当:榎谷

◆原発事故と甲状腺がんについて

福島の原発事故のあと、児童に甲状腺がんが1例発症したという報告がありました。チェルノブイリ事故のあとも小児の甲状腺腫瘍が問題になったというのも記憶に新しいところ。原発事故のあと甲状腺腫瘍がおこりやすいのかをご説明します

前号でも書きましたが、甲状腺ホルモンは、甲状腺から分泌され、全身の細胞に作用して細胞の代謝率を上昇させる働きをもちます。つまり元気を出すホルモンです。ヨウ素は2種類の甲状腺ホルモンサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の主要成分で、全身のヨウ素の70〜80%は甲状腺に偏在しています。ヨウ素が欠乏すると甲状腺ホルモンが作られなくなり、この状態が長く続くと甲状腺腫になります。ヨウ素の摂取量はヨウ素の尿中排泄量でみます。この値が1日当たり50マイクログラムより低くなると甲状腺腫が発生するとされています。世界の多くの国ではヨウ素欠乏対策を講じており、食塩や油にヨウ素を添加している国もあります。しかし、我が国の食生活ではヨウ素が欠乏する心配はまずありません。ヨウ素を多く含む昆布、わかめなどを直接食べますし、またダシとして利用されているためと思われます。1964年、昆布の産地である北海道の海岸各地で甲状腺腫が多発しました。検査の結果、尿中のヨウ素排泄量の平均値は正常量の約150倍で、ヨウ素過剰症であることが分かりました。1日に50〜80mgのヨウ素を摂取していたと推測されます。ヨウ素は摂りすぎても不足しても甲状腺腫の原因になります。米国栄養評議会ではヨウ素の摂取上限値を1日1mgと設定しました。我が国の食生活ではこの数値を上回るケースがしばしば見られるので、許容上限摂取量は1日3mgに設定されています。一方原発事故では、ウラン、プルトニウム、セシウム、ストロンチウム、放射性ヨウ素などが放出されます。福島では2011年の3月14日から3月15日に、放射性ヨウ素が大量に放出された事が後に判明しています。

一般の甲状腺がん

甲状腺がんは頻度が高く、その予後は良好です。甲状腺がんの約90%を占める乳頭がんの10年生存率は95-6%と極めて良好で、固形癌のなかで最も予後が良いとされています。また甲状腺がんの進行はとてもゆっくりで、小さなものは見つかってもすぐに手術をせず経過観察をおこなうこともあります。成人の乳頭がんの約半数にBRAFという遺伝子の変異が認められます。

小児甲状腺がん

頻度は14歳以下0.3%、19歳以下1%と全甲状腺がんに占める割合は極めて少ない割合です。本邦、欧米とも年間発生率は人口10万人あたり約0.2名とされています。経過では成人例とはやや異なり、肺転移例が多く認められます。甲状腺全摘が多く施行され、術後に放射線治療も必要になることがあります。しかし、成人例に比べ再発は多いものの生命予後に関しては成人に比較して良好とされています。成人とは異なり小児例ではRET/PTC遺伝子の再配列が多く認められます。チェルノブイリでの小児甲状腺がんでもこの遺伝子異常が多く認められ、放射線誘発の甲状腺がんにも認められる異常とされています。チェルノブイリでも過去25年間で6000人以上の放射線関連甲状腺癌(事故当時乳幼児から学童)が手術されましたが、死亡例は約15名(0.25%)と少ないものでした。しかも、死亡例の多くは、手術や術後治療に慣れていない施設での両側反回神経麻痺などの術後合併症に起因したものと考えられています。広島長崎の原爆による被ばくでは甲状腺がんは、1Svの外部被ばく線量で甲状腺がんのリスクが1.5倍に増加しております。被ばく量が高いほどまた被爆時の年齢が低いほど癌の発生が増えております。100mSv以上でリスクの増加が認められています。

チェルノブイリでは放射性ヨウ素に汚染されたミルクを飲んだ子供たちに事故後4-5年から小児甲状腺がんの増加が認められました。甲状腺がんを引き起こすとされる放射性ヨウ素は甲状腺に集まりやすい性質を持っており、甲状腺に蓄積された放射性ヨウ素はβ線、γ線を出し続けます。慢性的な要素欠乏地域でもあるチェルノブイリの子供たちは汚染されたミルクを通して多くの放射性ヨウ素を甲状腺に蓄積したものと思われます。福島では放射性物質の放出がチェルノブイリより少ないといわれていること(?)、事故後すぐに汚染された原乳はすべて廃棄され、その他の食品にも出荷規制が行われたこと、もともと日本人は海藻等ヨウ素を多く含んだ食材を食べていること、などから放射性ヨウ素による被ばくは非常に低く抑えられていると考えられていいます。よって国の発表(福島医大の見解?)では福島原発事故による甲状腺がんの増加の可能性は低いものと予想されています。

福島県の18歳以下の小児を対象に甲状腺腫瘍の検査をしています。甲状腺検査の対象は約36万人で、これまで結果が判明したのは約8万人。検査は甲状腺の超音波検査です。血液検査は一次検査には含まれていません。これまでの調査で0.5%にあたる425人が「一定の大きさのしこりなどが見られるため2次検査が必要」のB判定とされました。そのうちの60人が2次検査を受け、うち38人の結果が判明。この中の1人ががんと判断されたとのことです。新聞報道によりますと、甲状腺検査で甲状腺がんが見つかったことについて、調査を担当する鈴木福島医大教授は「内部被ばくのあったチェルノブイリ事故でさえ甲状腺がんは発生まで最短で4年。本県では広島や長崎のような高い外部被ばくも起きていない。事故後1年半しか経過していない本県では、放射線の影響とは考えられない」と東京電力福島第一原発事故の影響を否定しました。ちなみに手術の有無や遺伝子変異は発表されていません。

また精査が必要とされないA群として
A1:甲状腺に結節(しこり)や嚢胞(液をためた袋)を認めなかったもの60.0%
A2:5mm以下の結節や2cm以下の嚢胞を認めたものが39.4%となっています。
このA2判定は、通常の所見で良性所見と判断されるもので、精密検査は不要、と説明されています。
このA2判定の39.4%・B判定の0.5%が原発事故以前の子供にもある頻度なのかどうか、全国的な子供の数値はどんなものなのか?地域によってヨードの摂取量が変わるし、今回のように18歳以下全ての子どもを対象に精度の高い超音波検査を実施した例がなく、「比較はできない」としています。福島県民の声を受けてこれから先、地域比較がなされることを内閣府が決定しました。放射線の影響のない全国3か所以上で18歳以下の子供4500人以上に甲状腺検査を実施し、平成25年3月末までに検査データをまとめることを決めたそうです。検査には福島県と同様に日本甲状腺学会の専門医があたり、超音波検査機の水準や結果の判定基準も統一されるとのこと。しかし、まだどの地域で実施されるかは決まっていません。

AIDSや肝炎のような誤った情報を流し、健康被害が増大するようなことのないように。とにかく、正しい情報を発信して、子供たちに健康被害がないように、国も支援して頂きたいと考えます。福島県立医大だけでなく、技術を持った甲状腺の専門家の皆様も大変でしょうが、協力して正しい情報を出していただきたいと切に願います。

◆編集後記

10月1日インフルエンザ予防接種行います。
子供・大人関係なく、1回2,800円となっております。
接種後希望の方は、受付にて予約をお取り下さい。

【接種期間】
平成24年10月1日〜平成25年1月31日

料金:
1回目2,800円
2回目2,000円(1回目当院で接種した方のみ)